大阪高等裁判所 昭和51年(ネ)2168号・昭51年(ネ)2223号 判決
主文
一 第一審原告の第一審被告朴に対する控訴を棄却する。
二 第一審原告の控訴にもとづき原判決中第一審被告西川に関する部分を、第一審被告中村の控訴にもとづき原判決中第一審被告中村に関する部分をそれぞれ次のとおり変更する。
1 第一審被告西川および同中村は、第一審原告に対し、各自六九〇万九二八四円および内金四九九万五七四一円に対する昭和四四年五月二七日から支払ずみまで日歩五銭の割合による金員を支払え。
2 第一審原告の第一審被告西川、同中村に対するその余の請求を棄却する。
三 第一審原告と第一審被告朴との間では、当審における訴訟費用は、第一審原告の負担とし、第一審原告と第一審被告西川、同中村との間では、訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を第一審原告の、その二を第一審被告西川、同中村の負担とする。
四 この判決は、主文第二項1にかぎり、かりに執行することができる。
事実《省略》
理由
一<証拠>によれば、第一審原告は、昭和四二年一月二七日第一審相被告韓から、同人が参加銀行より一〇〇〇万円を借受けるについて参加銀行に対し信用保証をすることの委託申込を受け、同年二月二三日韓との間で保証委託契約を締結したこと、右保証委託契約において、第一審原告が参加銀行に代位弁済した場合には、韓は第一審原告に(1)右代位弁済金と同額の求償債権、(2)借入金残額に対する借入債務の弁済期日の翌日から代位弁済日の前日まで日歩一銭の割合による違約金、および(3)求償債権額に対する代位弁済日から完済まで日歩五銭の割合による遅延損害金をそれぞれ支払うことが約されていることを認めることができる。
二第一審原告は、右保証委託契約にもとづく韓の第一審原告に対する債務につき第一審原告は第一審被告中村、同西川、同朴との間でそれぞれ連帯保証契約を締結したと主張するので、この点について判断する。
1 まず、第一審被告中村についてみるに、被告中村が、昭和四二年二月二三日第一審原告との間で右の連帯保証契約を締結したことは、第一審原告と被告中村との間で争いがない。<中略>
2 つぎに、第一審被告中村についてみるに、<証拠>によると、被告西川もまた前同日第一審原告との間で叙上の連帯保証契約を締結したことを認めることができる。<中略>
三第一審原告は、参加銀行は韓に一〇〇〇万円を貸与したと主張するので、<証拠>を総合すると、参加銀行は、昭和四二年二月二五日第一審原告の信用保証のもとに韓に対し一〇〇〇万円を弁済期同年七月二五日、利息日歩二銭九厘の約定で貸与することを約し、韓の承諾のもとに、同年四月二五日まで(六〇日分)の前払利息一七万四〇〇〇円および手数料五〇〇円合計一七万四五〇〇円を控除し、その残額九八二万五五〇〇円を参加銀行韓名義の当座預金口座に入金したことが認められる。そして、金銭消費貸借契約が有効に成立するためには、必ずしも現実に金銭の授受があることを必要とせず、取引上金員の授受があつたと同視し得る経済上の利益の付与があれば足りるのであるから、利息制限法に牴触しないかぎり、借主の承諾のもとに、当然借主の負担に帰すべき利息ないしは金員の借入れのために要した手数料等を貸付金より控除したとしても、その控除額を含む貸付金の全額について消費貸借の成立があると解し、あるいは、貸付銀行が当該銀行の借主名義の預金口座に預金の預入手続をとり借主をしてその払戻請求権を取得させることによつて、その払戻しを待つまでもなく、直ちに消費貸借の成立があつたものと解しても差支えないものといわなければならない。
したがつて、参加銀行と韓の間に昭和四二年二月二五日前払利息一七万四〇〇〇円、手数料五〇〇円、預入金額九八二万五五〇〇円合計一〇〇〇万円について弁済期昭和四三年七月二五日利息日歩二銭九厘の約定による消費貸借契約が成立したものとみることができる。
四そして、<証拠>によると、韓は、貸付金の弁済期である昭和四二年七月二五日を経過しても、その元本およびこれに対する同年四月二六日以降の利息の弁済をしなかつたため、第一審原告は、参加銀行の請求に応じ同年一〇月一二日借入金元本一〇〇〇万円および右金員に対する同年四月二六日から同年一〇月一二日までの一七〇日分日歩二銭九厘の割合による借入金利息四九万三〇〇〇円以上合計一〇四九万三〇〇〇円を弁済したことが認められる。
五被告中村、同西川は、第一審原告と参加銀行間の保証契約中には、参加銀行の保証にかかる貸付金をもつて旧債の弁済に充当してはならない旨の約定が存していたとし、本件貸付金一〇〇〇万円のうち六一七万四三八〇円(被告中村の主張)または八〇九万九八八〇円(被告西川の主張)が韓の参加銀行に対する旧債の弁済に充てられたと主張して、第一審原告と参加銀行との間の保証契約の効力を争うので、判断する。
1 <証拠>を総合すると、(1)韓は、昭和四一年四月三〇日参加銀行から相互掛金契約にもとづく二五〇〇万円の給付を受け、これに対する給付後掛金として毎月六二万五〇〇〇円を支払う義務を負担していたほか、右給付金に対する利息の支払義務を負担していたこと、(2)また、韓は、参加銀行から同年八月一六日二五〇万円、同年九月一六日一五〇万円、同年一一月二日一〇〇万円を借受け、その利息支払義務を負担していたこと、(3)ところが、韓は、利息および掛金の支払を遅滞し、昭和四二年二月二八日に支払うべき利息および掛金は利息が一四九万九八八〇円、掛金が二五〇万円、以上合計三九九万九八八〇円になることになつていたこと、(4)前認定のとおり同月二五日に行われた本件貸付の中から九八二万五五〇〇円が同日参加銀行の韓名義の当座預金口座に入金されたのであるが、当時右口座の残高は九七七一円であつたのでこれと合わせて右口座の金額は九八三万五二七一円となつたところ、同日二〇〇万円の支払があつたので、預金残高は七八三万五二七一円となつたこと、(5)韓は本件貸付に際し参加銀行の要請により前記三九九万九八八〇円の支払をすることになつていたので、本件貸付が行われた同月二五日右金員支払のため振出日を白地として同額の小切手を参加銀行に振出し、参加銀行において右振出日を同月二八日と補充し同日韓の当座預金から同額を引落して、右三九九万九八八〇円の支払を受けたものであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。右認定の事実によれば、本件貸付金より右三九九万九八八〇円が韓の参加銀行に対する旧債に充当されたものということができる。被告中村、同西川は右三九九万九八八〇円以上の金員が旧債に充てられたと主張し、右証人山本達男および第一審相被告韓の供述中には右主張にそう部分があるが、にわかに措信することができない。
2 <証拠>によると、第一審原告と参加銀行は、昭和三九年二月二六日付で約定書をとりかわしており、右約定書には、参加銀行は、第一審原告の保証にかかる貸付をもつて参加銀行の既存の債権に充てないものとする(四条本文)、ただし、第一審原告が特別の事情があると認め、参加銀行に対し承諾書を交付したときは、このかぎりでない(四条ただし書)旨の定めがあり、さらにこれを受けて、参加銀行が右四条本文に違反したときは、第一審原告は参加銀行に対し保証債務の履行につきその全部または一部の責を免れるものとする(一二条一号)旨の定めがあることが認められる。
思うに、信用保証協会は中小企業者等に対する金融の円滑化を図ることを目的とする法人であり(信用保証協会法一条参照)、このような中小企業者等の育成振興という公的使命を果すために地方公共団体の出損その他の財政援助、さらには中小企業信用保険公庫を通じ国の財政資金が導入されていることは、当裁判所に顕著なところであつて、<証拠>によると、第一審原告も同法にもとづき右の目的のもとに設立されたものであることが明らかである。このような信用保証協会の性質にかんがみると、信用保証協会が単に旧債の回収のみのために貸出される資金について信用保証することは、その趣旨にそわないものというべきである。前記約定書は信用保証協会の行なう大量の保証取引に関する定型的かつ基本的事項をあらかじめ金融機関との間で定めたものと認められるが、旧債振替に関しその四条および一二条において叙上の定めをもうけているのは右の趣旨に出るものと考えられ 同旨の条項が各信用保証協会と各金融機関との間にかわされている約定書にひろくとり入れられていることも、当裁判所に明らかなところであつて、金融機関が右の旧債振替禁止条項に違反するがごときは厳につつしまなければならないし、信用保証協会としてもこれを看過することがあつてはならないのである。このようなところからすると、右約定書は、第一審原告の保証貸付金の全部または一部について旧債振替が行われたときは、第一審原告は、叙上の例外に該当する場合を除き、参加銀行に対し当該旧債振替部分につき保証の責に任じないことを定めたものと解すべきである。したがつて、第一審原告は、参加銀行から保証債務履行の請求を受けても、旧債振替部分に関しては、叙上の例外に該当する場合を除き、その弁済を拒絶することができることはもとよりとして、弁済をしたとしても保証債務の弁済としての効力を生ぜず参加銀行に対してその返還を求めることができる筋合であり、そうであるとすれば、第一審原告が旧債振替部分に関して参加銀行に対し自己の保証債務弁済名下の支払をしたとしても当然には主債務者の参加銀行に対する借受金債務は消滅せぜ、したがつてまた、第一審原告は信用保証委託契約にもとづく求償債権を取得しうるものではなく、右信用保証委託契約の連帯保証人である第一審被告中村、同西川に対し右求償債権についての連帯保証債務の履行を求めることはできないのである、これを第一審原告と第一審被告中村らの関係で実質的にみると、信用保証協会(第一審原告)と金融機関(参加銀行)との間の信用保証契約は約定書にもとづくものであり、信用保証協会と保証委託契約の連帯保証人(第一審被告中村ら)との間の連帯保証契約は、信用保証契約により信用保証協会が金融機関に履行する債務に関するものであるから、連帯保証人としては、信用保証契約つまりは約定書にもとづいて有する権利義務を誠実に行使し履行することを当然の前提としているというべきところ、信用保証協会が約定に違反した金融機関に対して叙上のように旧債振替部分に関する弁済分の返還を求めることができ、返還を求めれば金融機関のことであるから容易にその履行が期待できるのに信用保証協会においてその返還を求めずにあえて連帯保証人に対し当該部分についての求償債権の保証責任を追及することを認めるのは、相当でなく、このような事態は、信用保証協会の行う信用保証を通じて信用委託契約の連帯保証人に主たる債務者の旧償の支払責任を負担させるに等しく、妥当を欠くというべきである。
3 被告西川は、第一審原告の信用保証付貸付金について一部でも旧債振替があればその契約違反は信用保証契約全体の無効を招来すると主張し、さらに被告西川、同中村は、一〇〇〇万円のうち三九九万九八八〇円についての旧債振替があれば錯誤により信用保証契約全体が無効となると主張するが、叙上の事実関係のもとにおいて一部の旧債振替という参加銀行の契約違反が信用保証全体の無効理由になると解すべき理由はない。また、前記約定書一二条が旧債振替があれば第一審原告は保証債務の履行につきその全部または一部の責を免れるものとすると定めているところからすると、一部の旧債振替が当然に全部の免責事由になるものと解すべきではないし、弁論の全趣旨に照らすと、貸付金一〇〇〇万円のうち三九九万九八八〇円について旧債振替があつたとしてもなお本件信用保証の目的を達しうるものと認めることができるから、右被告らの主張は採用することができない。
4 そうすると、第一審原告は、上記弁済金のうち旧債振替部分三九九万九八八〇円およびこれに対する昭和四二年四月二六日から同年一〇月一二日までの一七〇日分日歩二銭九厘の割合による借入金利息については被告中村および同西川に対し求償権を取得しえないというべきである(なお、第一審原告が右の旧債振替に関し約定書四条ただし書の承諾書を交付していないことは、第一審原告の自陳するところである。)。
また、本件保証委託契約においては、被告中村、同西川は、韓の借入金残額に対する借入債務の弁済期日の翌日(昭和四二年七月二六日)から代位弁済の前日(同年一〇月一一日)まで(七八日間の)日歩一銭の割合による違約金を連帯して支払う義務を負つていること上記のとおりであるが、右違約金の趣旨は、保証委託者であり参加銀行に対する主債務者である韓に可及的速やかに参加銀行に対する債務の弁済をさせて第一審原告の代位弁済の必要を生じさせなくすることにあると解されるから、もともと第一審原告に代位弁済の必要を生じさせない旧債振替部分については右の違約罰を課する実質的理由を欠くから、旧債振替分三九九万九八八〇円に対する右期間の所要の違約金については、同被告らに支払義務がないというべきである。
六以上述べたところからすると、被告中村、同西川は、第一審原告に対し、(1)貸付金元本一〇〇〇万円から旧債振替分三九九万九八八〇円を控除した残額六〇〇万〇一二〇円、右金員に対する昭和四二年四月二六日から同年一〇月一二日(代位弁済日)までの一七〇日分日歩二銭九厘の割合による借入金利息二九万五八〇六円、合計六二九万五九二六円の求償債務、(2)右六〇〇万〇一二〇円に対する同年七月二六日(弁済期の翌日)から同年一〇月一一日(代位弁済日の前日)までの七八日分日歩一銭の割合による四万六八〇一円の違約金、および(3)右求償債務六二九万五九二六円に対する同年一〇月一二日(代位弁済日の翌日)から支払ずみまで日歩五銭の割合による損害金を支払う義務があるというべきところ、その後昭和四四年五月二六日右求償債権元本につき一三〇万〇一八五円の内入弁済があつたことは第一審原告の自認するところであるから、同日現在における債権額は、求償債権元本四九九万五七四一円、違約金四万六八〇一円、六二九万五九二六円に対する昭和四二年一〇月一二日から昭和四四年五月二六日まで五九三日分日歩五銭の割合による遅延損害金一八六万六七四二円以上合計六九〇万九二八四円となる。したがつて、被告中村、同西川は、第一審原告に対し、連帯して右六九〇万九二八四円および内金四九九万五七四一円に対する昭和四四年五月二七日(上記内入弁済日の翌日)から支払ずみまで日歩五銭の割合による遅延損害金を支払う義務があることになり、第一審原告の同被告らに対する請求は右の限度で理由があるが、その余は失当として排斥を免れない。《以下、省略》
(朝田孝 富田善哉 川口冨男)